第35回「Everything大問題!2」

 第35回「Everything大問題!2」
 続! 天才・冨田ラボのアレンジに迫る!


講義動画は→→→こちら


太整せんせいもすっかり全快して復活。
今回も「Everything」の神アレンジに迫りますよー!


服もかぶってコンビにも年季の入ってきたおふたりです。

開始30分は「あなたの知らない焼き芋売りの世界」です。興味のある方は動画でどうぞー。


 前回の復習

前回はAメロの1週め部分を分析しました。

冨田ラボ・リハモの特徴は、ふつうの発想のさらに上の段階でコードをつけているってこと。
オンコード、UST、モーダル・インターチェンジクリシェの多用が目立ちます。


メロディにダイアトニック・コードをつけただけのアレンジが、こうだと思ってください。
メロディくんは、コードの安全な家の中にいます。


一方、冨田仕事のイメージはこんなかんじです。

ざっぱああーーーーーーーーーん!!!!!ON・THE・崖っぷちです。

大事なのは、メロディくんは変わらず、いる環境だけが変わっているという点。
さらに、すごいのは、メロディくんはあくまで崖から落ちないギリギリのところにいるということ。
ぶっ飛んだアレンジをすることは誰にでも可能ですが、冨田ラボのすごさは、耳に心地いい範囲、ポップスらしさを失わない範囲で最大限のギリギリさを表現しているということなんです!


じゃ、今日の講義にいくよー!

よいしょ!


♪Everything ダウンロードはこちらでどうぞ。



 Everything Aメロ


今日はAメロの後半から分析していきます。「♪逢いたい〜想いのまま〜」のところからだよ! 


こんな感じです。はいドン。

モーダルインターチェンジとダイアトニックコードが入り混じった複雑な構成。
ここもやっぱりオンコードだらけですね。ベースラインが冨田ラボならでは。

変化のある「あの人と笑い合う」のところに注目。
G♭m7 → G♭m7/D♭ → G♭m7/B → B7/A

コードは G→B ですから一般的な II-V モーション
そこにベースラインだけを G♭→D♭→B→A とクリシェさせることによってジャズっぽさを回避!
ちょっと上げて、そこからひたすら下げていきます。カルロス・ジョビン並みのサゲサゲアレンジ。


しかも、最後のサウンドは B/A 。
ベース音の全音上のメジャートライアドをのせるタイプのUSTです。
テンションが入ったとてもかっこいいサウンドになっています。
独立して聴くとすんごいイカツイ音に聞こえるのに、これを違和感なくサラリと混ぜてくるところが冨田ラボの神業。 

☆「♪を〜〜〜〜〜〜〜」の最後 Gdim はパッシング・ディミニッシュ。次にくるFm7に華麗にスルーパスが決まってます。

まとめはみやこせんせいの直筆ノートだよ! 

ピンクの部分はモーダル・インターチェンジ(曲のキーはD♭メジャーなので、D♭マイナーからの借用)。
青の部分はダイアトニックコード、もしくはセカンダリドミナントなど。

平穏と不穏がいりまじっていますねー。

ときにこういうパンチがきいたヤツが出て来るとこが安心できない。


さーてお次はBメロだー! 



 Everything Bメロ


ダイアトニックコードだけを使うと、こういう感じになります。


冨田ラボの実際のアレンジはこちら。


見慣れてきたのかな? そこまでの変化ではないような……。

あれ??青ばかり。 ダイアトニックコードだらけということです。
今まで散々モーダルインターチェンジをしておいて、Bメロはダイアトニックコードだらけ。
優しい、理解が出来る、なんだ簡単じゃん。
しかし、決して安心してはなりません。

さあ、久しぶりのベロベロ名物。恋愛でわかる音楽のお時間がやって参りました。本日のお題は「DV夫」。  

先生いわくこの優しさはDV夫のハネムーン期。嵐の前の静けさです。

短期連続ドラマ『ディブリシング』  第一回「愛しき人よ〜泣き疲れて眠る夜〜」
“冨男”の暴力に怯えつつも離れ切れない“みしゃ子”。
「だって時々は優しいんだもの。あの人には私がいないとダメなの」。
いつになく機嫌のいい暴男。久しぶりの旅行を前に、おだやかな日々が訪れました。
しかし悲劇は荷造り中に起きたのです。ちょっとした行き違いから激昂する冨男。
強烈な一撃がみしゃ子を襲いました……。  

 


たとえが重いよ!! せんせいのバカ!!!!!!!!!!


最後のコードを見てください。F/A♭。これヤバい。これDVだから。

穏やかな日々をブチ壊しにする強烈なパンチです。
これ、ちょっと今までの講義でも聞いたことないおかしな音。

「フリージャズじゃないんですよ! ポップスなんですよ!」ってみやこ先生。

しかもサビ直前にこんな音ふつー持ってきませんよ。ヤバいです。 

でもこれが違和感なく、本当にギリギリの危うさで織り込まれてるところが本当にすごい。

発想としては F/A♭7 なんですね。これなら♭9・11のテンションの入ったUSTになります。でもセブンスの音が入ることによって音にえぐみが出過ぎる。そこでオンコードにしてちょっとだけすっきりさせている。本当に繊細な作業です。

ちょっと衝撃を受けたのでBメロ実演部分だけ切り出してみましたよ。忙しい人向け。どうぞお聞きください。


Video streaming by Ustream


曲聴いているとさらっと流しちゃうんですけど、たしかに「わたしだけ〜〜〜」のあと、「ヨーエビー」の一瞬前に、ためがあって、空気がふっと変わる瞬間がありますよね。あれだ、あれ。「さらっと流せる」ようになっているところがスゴイ。
警察沙汰にならないギリギリのラインで繰り広げる暴力です (´・ω・`)? 

動画では、パンチなしver. やり過ぎver. などいろいろ演奏してみてます。比べるとよりわかりやすいですよ。



崖から片足はみでた感じ(みやこ先生に膝入れてる画像ではありません)


DV男から逃れる方法は1:30くらいからみやこ先生が熱く語ってくれてるよ! 

というわけで、ギリギリパンチを喰らったところでいよいよサビ! 

『ディブリシング』第二回「Don't look back〜私だけ見つめて〜」計算し尽くされた暴力……。
入院させたり、警察沙汰にならないように力加減をするのが冨男なのです。
みしゃ子は目を腫らしつつも、明日からの旅行に備え荷造りを終わらせるのでした。きっと楽しい旅行になる、彼も変わってくれると信じて……。

 Everything サビ


猛り狂う冨男の独壇場。サビのコードはこうなっております。

コード(ハーモニー)とベースラインがまるでモードのようにホリゾンタル(平行)で自由な動きをしています。
モードはそれぞれの動きがバラバラで、バーティカル(縦方向)がないのが特徴ですが、バーティカルに切り取ってもきちんと成立したコードになっています。


前半「You're everything 〜 あなたが想うより強く」

入りはダイアトニックコードでおだやかに進行します。夏が過ぎ風あざみな進行です。
ソウルの必殺技 A♭m6 → D♭7 → G♭M7 (VIメジャーに対するII-V)なんかをさらりと無駄使い。
そして!
UST!! A♭/G♭ ドカン!! 
そして!!

バキーーーーーーーッこのサウンドこそTHE・冨田ラボ 

そしてまたごく普通のセカンダリドミナントです。
変な音ときれいな音が交互にあらわれます。もう精神状態が不安定。
わかりにくいからDVでたとえます。

『ディブリシング』第三回「あなたが想うより強く〜You're everything〜」昨夜の一幕が噓のように上機嫌の冨男。早起きして楽しそうに車を回してきました。「行こうぜ!」
(よかった…楽しい旅行になりそうだわ…)一安心のみしゃ子でした。そこになんと冨男からのプレゼント。「これ! 帰りに渡そうかと思ってたんだけどさ!」
(え…出発したばかりなのにもうサプライズ…?)みしゃ子は内心不可解に感じながらも、冨男からのプレゼントに笑顔で応えました。
まるで「少年時代」(〓井上陽水)のように無邪気に振舞う冨男。
しかしそれもやはりかりそめの姿でした。
ご当地名物を食べながらのパンチ、
観光地を巡りながらの強烈キック。 
豹変してばかりの冨男に、振り回されるみしゃ子なのでした。


ちなみに「強烈キック」の E/B♭ は 薩長同盟にたとえることもできるそうですよ。
歴史好きの生徒の皆さんはこちらの太整せんせい解説で理解を深めてください。

日本の革命のために薩長を結び、自分は身を引いた龍馬。
まさに J-popを洗濯致したく申し候 です。 


後半「優しい噓ならいらない 欲しいのはあなた」

1小節目は得意の2段階アレンジ。 

注目すべきはここ! 


なんすかこれ、見たことないっす。 
E♭m7♭5/A → E♭m7♭5/A♭


E♭m7♭5/Aの解説 

E♭m7♭5/A♭はこうです。

発想はこうなのだろうという感じですがもはやコードとして成立していません。
今まで勉強してきたコードの概念をぶち壊す和音です。

そしてラスト、一番の最後なのにトニックじゃない!!!!なんで!! 

どしっとした着地じゃない、何か別の場所に戻ってしまったかのよう。 


さあ、どんなつくりかドラマで確認しましょう。

『ディブリシング』最終回「優しい噓ならいらない!!」家路につく車内には、すっかり疲弊しきったみしゃ子の姿がありました。
正気と狂気のあいだを揺れ動く冨男の様子は、とても表現できない。
助けを求めようにも、伝える言葉がないのです。
(やっぱり、この人にはわたしがついてなきゃ……!)
旅の終わりに、いつもと少しだけ違って見える日常が待っていました。
やまとなでしこのように、耐え忍んで生きることを決意するみしゃ子なのでした…。oh yeah…。 〈完〉

え? オチなんかないですよ…。曲を表現しただけだもん……。 






まとめ!!


さあこれで一番まで全部分析しおわりました。
いちばん強烈だったのはサビ前の F/A♭ でしたね。 

DVあり維新ありの解説、いかがでしたでしょうか。
恐るべし冨田恵一
今日はたくさん勉強しましたが、ここで出て来たワザ、安易に取り入れるなかれです!
一歩まちがうと崖からまっさかさま。大事故につながりかねませんよ。

あとこんなDV男、さっさと捨てちゃいましょうね。
これ、耐えられんのみしゃ子くらいだから。まじで。歌姫だから。



パーカーがかぶってんのが気になって授業に集中できません!


最後に譜面だけおいときまーす。(見づらくてごめんなさい)
演奏家のみなさんは、結婚式での無茶振りに備えて練習しておきましょう!



次回も引き続き、Everything をガンガン分析していきます!! 


お楽しみに!!!!!